あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
11.彼女がいなくなった日
 コリーンは、昔は気弱な妹であった。癖のある赤茶の髪に、毎朝苦戦していたのを覚えている。
 それに、あの傲慢な父親に怯えていた。
 父であるエイムズ子爵は、とにかく女性に威張り散らす性格なのだ。
 母親もコリーンも、父親の顔色を見ながら息をしていた。
 そんなコリーンが仲良くしていたのが、カール子爵家の令嬢、ウリヤナ・カールである。学院で知り合ったのがきかっけらしい。
 彼女たちは、裏では「地味二人組」と呼ばれるくらい、目立たない二人であった。
 だからこそ、気が合ったのだろう。
 そんな陰口も気にしない彼女たちは、それなりに充実した学生生活を送っていたし、学院を卒業した後も、二人の仲が続くだろうと周囲は思っていた。
 きっかけは、カール子爵家が投資に失敗したという噂が聞こえてきたときだろう。外国の商会に出資したらしいのだが、その商会は金だけ持って姿を消した。
 商人出のカール子爵ではあるが、今の子爵には商才がなかったようだ。
 ウリヤナは学院に通ってはいるものの、付き合いのような茶会にはすっかりと顔を出さなくなったらしい。いや、出せなくなったのだろう。
 コリーンのほうが、気まずく思っていたのかもしれない。
 それでも表面上の付き合いは続けていたはずだ。
 そして転機が訪れたのは、彼女たちのデビュタントだった。十六歳になった女性は、デビュタントを迎え、国王に挨拶を終えた後、魔力鑑定を受ける。
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