あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
『お兄さま……ウリヤナが……ウリヤナが聖女だったのよ』
 聖女とは『聖なる力』を持ち、神とつながり奇跡を起こす女性のこと。
 ヘンリーは眉間にしわを刻む。
『聖女が現れた?』
 聖女の聖なる力は、魔力とも異なる。自然界の力を増幅させる魔力だが、聖なる力は『ないものから作り出す』ことができる。失いかけたものを、取り戻すのだって容易い。
 だから、本来であれば命を失うような病気やケガに侵されたとしても、奇跡のような力で治せるのが聖女である。
 そして何よりも、神とつながるため、この国の将来すら見えるとも言われている。
 聖女の出現によって、このイングラム国は過去に他国からの侵略や災害などから救われたという文献も残っているくらいだ。
 王城に自由に出入りできる身分を手に入れたヘンリーだからこそ、そういった文献も自由に閲覧できる。
『……そうか。その話は、本当なのだな?』
『ウリヤナは、神殿に入るそうよ』
 となれば、間違いないだろう。聖女として聖なる力がある女性は、神殿でその力を高めながら、人のため、国のために力を使うと聞いている。
『私は、国家魔術師にすらなれないというのに。ウリヤナは聖女なのよ!』
 彼女はそれが言いたかったのだろう。
 コリーンはウリヤナに嫉妬している。それを、まざまざと感じた。
 ヘンリーにもその気持ちは理解できた。なによりもヘンリー自身が、妹であるコリーンに嫉妬している。彼女の魔力に。
 ひとしきり何かを喚いた彼女は、気が済んだのか、ヘンリーの部屋を出ていった。

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