あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それが間に合わなかった。
「父上」
 執務室にやってきたのは、クロヴィスである。
「ウリヤナの話を聞きましたか?」
「あぁ」
 クロヴィスもその話を聞いたのだろう。だからわざわざここに足を向けたのだ。
「聖女を輩出した家には、聖女褒賞金が支払われるわけですよね?」
「そうだ……。それが、何か問題か?」
「……いえ」
 聖女褒賞金とは、聖女が神殿に入ると、その聖女を輩出した家に支払われる褒賞金のことである。
 聖女が神殿に入るのに、褒賞金を支払うのは国なのだ。
 クロヴィスは何か言いたげに唇を震わせるが、それが言葉になることはなかった。
「では、失礼します……」
 頭を下げると、自慢の金色の髪がさらっと音もなく揺れた。
 そんな彼の背を見送る。それは、どこか物寂しい感じがする背中であった。
 こんなクロヴィスを目にしたことがない。
 何に寂しさを感じているのか。
 何を話題にしていたか。
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