あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 一度出した打診を、すぐに引き下げるわけにもいかない。だが、カール子爵はできた男だった。
『もう少し、考える時間をください』
 この言葉は偉大である。カール子爵家が答えを出すまで、こちらは待てばいい。そして答えを出してきたところで、時間がかかりすぎだのなんだのと言って、こちら側から断ればいいのだ。
 だが、あれ以降、カール子爵家は何も言ってこなかった。そして、今、ウリヤナ・カールという人間はもういない。
「……そうですね。聖女殿であれば、私の相手に相応しいでしょう」
 聖女は聖女であり、聖女以外の何者でもない。ウリヤナという名もあるが、人前に出るときは『聖女』と呼ばれる。だから、聖女の名がウリヤナであると知っているのは、関係者のほんの一部のみ。
「では早速、神殿に書簡を送ろう」
 聖女の生活は、すべて神殿側が握っている。聖女に婚約を打診するのであれば、カール子爵家ではなく、神殿に話をつける必要があった。
 クロヴィスは何事もなかったかのように、食事を再開させた。
 神殿に聖女の結婚相手としてクロヴィスはどうかと、それとなく働きかける。しかし、色よい返事はもらえなかった。
 理由は、まだ聖女が聖女となって日が経っていないことがあげられた。
 せめて一年は待ってほしい、というのが神殿側の答えである。
 聖女になってからの一年間は、神殿での務めに注力してほしいようだ。この期間で、聖なる力が安定するらしい。
 となれば、これは時期が熟すまで待てばよい。
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