あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 デイヴィスが聖女に問い質すと、「クロヴィス殿下は、他の方を想っているようですから」と、表情を曇らせて答える。
「クロヴィスには、私のほうからもきつく言っておくよ。聖女殿は、我々にとってはもう、娘のようなものだから」
 デイヴィスの言葉に、聖女は少しだけはにかんだ。
 そんな息子の様子を見ていてデイヴィスは思うところがあった。クロヴィスは、隣に他の女性を侍らせながらも、その視線は聖女を追っている。
 つまり彼は、聖女に嫉妬をしてもらいたくて、違う女性に近づいている。
 そして聖女は、それにすら気がついていない。
 愚かで滑稽なその様子に、ふいに笑いが込み上げてきた。だが、ここで対応を間違えれば、聖女はクロヴィスとの婚約解消を願うだろう。
 聖女のあの力は本物である。何がなんでも、こちら側に取り込みたい。だから、クロヴィスと聖女の婚約解消など、あってはならないのだ。
 そう思っていた矢先、聖女の様子がおかしいことにはたと気づいた。
「聖女殿。お疲れか?」
 その言葉に、彼女は少しだけ首を傾げた。
 しかし、その違和感は確信へと変わる。
 彼女は、どうやら聖なる力を失ったようだ。
 王城を訪れる彼女は、デイヴィスと共に過ごす時間が長い。それは視察に聖女を同行させているからで、その視察先で彼女は力を使わずに知恵を授けた。
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