あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 その違和感を拭いきれず、本人ではなく神殿に問い質す。
 神殿側はあっさりと認めた。
 だが、聖なる力は何がきっかけとなり与えられ、何をきっかけで失われるかわからない。そのため聖女の力を取り戻すために、神殿側も万全を期すとのことであった。
 それでも力を失った聖女など、役には立たない。
「クロヴィス。聖女殿との婚約は解消しろ」
 彼を呼びつけて、その言葉を突きつけた。
 クロヴィスは鋭い視線を投げつける。
「父上、何をふざけたことを? 聖女を私の婚約者にというのは、こちら側が望んだことではありませんか」
「あれはもう、聖女でありながら聖女ではない。聖なる力を失っている、ただの人間だ」
 声にならないような声で「え」と聞こえた。
「聖なる力のない女になど、こちらも不要だ。だからお前は、こちら側にとって役に立つ女性と婚約し直せ」
「……いや、しかし」
「どうしても彼女がいいと言うのであれば」
 そう言葉にしたのは、クロヴィスの気持ちを知っているからだ。本人は必死になって隠そうとしていたようだが、聖女と共に行動することの多いデイヴィスだから、その視線の先を察した。
「側妃か愛妾かにしろ。正妃は許さん」
 きつく握りしめられたクロヴィスの手は、小刻みに動いていた。唇をきつく閉ざしたまま、目を大きく見開いてこちらを睨みつけるだけ。
 わなわなと唇が震え、そこから微かに「承知しました」とだけ聞こえた。

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