あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 しかし、目の前にいるコリーンは深紅のドレスを身にまとい、艶やかな唇にも真っ赤な口紅が引かれている。赤みのかかった茶色の髪は、大きくうねって背中に流れていた。
 妖艶な美女と表現すれば聞こえはいいが、どことなく娼婦を思わせるような雰囲気をかもし出している。
 彼女は躊躇いもせずにクロヴィスの隣に座った。ふわっと、香水の強いにおいがウリヤナの鼻をかすめた。
 無意識に顔をしかめる。
「ウリヤナ。私は彼女と婚約をするつもりだ」
 優しい笑みを浮かべたクロヴィスの視線の先には、勝ち誇った笑みを浮かべているコリーンがいる。
「左様、ですか……」
 そう呟いたウリヤナの声はかすれていた。声にならないような声。
「あらぁ、ウリヤナ。悔しいのかしらぁ? 悔しいのならぁ、泣いてもよろしくてよ?」
 クロヴィスの腕に自身の腕を絡ませたコリーンは、彼に身を寄せる。ドレスの胸元から見え隠れする谷間を、彼の腕に押し付けているようにも見えた。
「いいえ……」
 悔しくはない。クロヴィスとのことはもういい。彼が他の女性を侍らせるようになった一年前から、彼の心は離れていたのだ。それを無理矢理つなぎ止めようとした、自分の浅はかな行為を恥じているだけである。
「このたびは、おめでとうございます」
 鼻の奥がひりひりと痛む中、コリーンに向かって祝いの言葉をかけた。
「ありがとう」
 そう言ったコリーンは微笑んだが、どことなく婀娜っぽい笑みにも見えた。
 こんなコリーンをウリヤナは知らない。
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