あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 微かに動いた唇は、驚きの声を漏らす。
「私としては、クロヴィスとウリヤナの婚約には反対していたところなのだよ。そこにお前が現れた。誰よりもクロヴィスの婚約者として相応しいお前がな。私としては、ウリヤナよりもお前のほうがクロヴィスの相手に相応しい女性であると思っている」
 そうやって目の前の彼女を持ち上げていくうちに、彼女の瞳は自信の色に満ちてくる。
「どのような手段を用いてもかまわない。私は、お前をクロヴィスの婚約者として歓迎する」
 そう言って彼女に、酩酊薬を持たせた。この薬は、飲酒したときのように、自己制御や判断力を低下させる作用がある。
 これをクロヴィスに飲ませて、既成事実を作ってしまうのが手っ取り早い。
 そう、コリーンにささやいた。
 晩餐会を開き、そこに新たなる聖女としてコリーンを招待する。彼女は、誰にも気づかれぬよう、あの酩酊薬をクロヴィスの飲み物に入れたようだ。いや、デイヴィスだけは気づいていた。彼女の様子を逐一観察していたから。
 珍しく酔ったクロヴィスを介抱したのがコリーンである。
「よくやった」
 あとはクロヴィスに責任を取るようにと、厳しく詰め寄ればいい。
 これでやっと聖女が手に入る。聖女の力を、こちらで自由に扱える。
 デイヴィスは、微かに唇の端をゆるめた。
 コリーンは忠実な娘だった。力がなくなるから力を使うなと言えば、その力を使わない。
 ウリヤナが力を失った末、家に戻ることもできずに修道院へと身を寄せたという事実が彼女をそうさせているのだろう。
 無闇に力を使いその力を失えば、近い将来、自分自身もそうなると。
 それでも最近、聖女の力を求める声が多くなっている。隣国のローレムバからそれを求められたときは、一蹴した。
 各地から嘆願書が届こうが、それらを無視した。
 貴重な聖女の力を、無闇やたらと使ってはならないのだ。
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