あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「ふぅん。こう見ると、あなたはなんだって間抜けな顔をしているのねぇ」
「聖なる力がなければ、彼女は地味な女だからな。聖女と呼ばれて、有頂天にでもなっていたのだろう? だから力を失った途端、このざまだ」
 ウリヤナは膝の上に置いた手をきゅっと握りしめる。
「そうよねぇ。聖女になった途端、人を見下すような態度をとっていた罰ではないのかしらぁ? 力を失うだなんて……いい気味だわぁ」
 奥歯を噛みしめながらも、絶対に二人から目を逸らさなかった。ここまで言われなければならない理由はわからない。
 それに、ウリヤナはけして人を見下すような態度をとったつもりはなかった。
 けれども、他人からどう思われていたかは知らない。もしかしたら、そう思われるような行いをしてしまったのだろうか。
 ウリヤナは、聖女として神殿で祈りを捧げ、この国を平穏に導いているつもりだった。
 聖女の癒しの力は、何も人間にだけ効果があるものではない。土壌だったり気候だったり。作物が豊かに実るのも、必要なときに雨が降り、太陽が煌々と輝くのも、聖女の力の一つとも言われているのだ。それによって、人々は飢えと渇きという苦しみから解放される。
「ねえ、ウリヤナ。教えてあげるわぁ」
 右手の人さし指を、唇の前に立てる仕草がわざとらしい。
「私もねぇ。聖なる力が目覚めたのぉ。だから、ヴィーと婚約する資格を得たのよぉ」
 婚約する資格だけでなく、彼を愛称で呼ぶ資格も得たようだ。ウリヤナは口を閉ざしたまま、彼らの話を聞き流す。
 聖なる力は何がきっかけで現れるかがわからない。そして、何がきっかけとなって失うのかもわからない。
「でもぉ。わかったのが遅かったじゃない? だからぁ、神殿には入らないでねぇ?」
 ね? と顔を見合わせている二人には、二人にしかわからない世界があるのだろう。
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