あなたの子ですよ～王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ～

　むしろ、レナートがその名を知っていたことのほうが驚きである。彼のことだから、盗み聞きでもしたに違いない。
「ロイさん。そろそろ一時間になりますが……。ちょっと奥様たちの様子を見てきたほうがいいですかね？」
　お茶を飲み、お菓子を食べ、満足そうに笑みを浮かべているアンナが、時間を気にし始めた。
「アンナ……。今、戻ったところで、黒焦げになるだけですよ？」
「ですが、旦那様って加減をわからないじゃないですか。そろそろ誰かが止めに入らないと、奥様のほうが……」
　二人の時間を邪魔するのは野暮というものなのだが。
「そうですね。そろそろ戻りますか」
「いいよいいよ、片づけはこっちでやっておくから。早く奥様のところに戻って」
「今日の夕飯は、さっぱりしたお粥のほうがいいかもしれないな」
　この後、起こることをなんとなく予想できている彼らは、本当に優秀な使用人たちである。
　ロイとアンナが並んで部屋へ戻ろうとすると、ホールでばったりとレナートに会った。
「よかった。お前たちを呼びにいくため、外に出ようとしたところだった」
「どうされました？　レナート様」
「ああ。ウリヤナが気分が悪いと言い出して」
「レナート様。あれほどいいましたよね？　調子にのって魔力を注ぎすぎないようにと。レナート様とウリヤナ様の身体は違うのです。受け入れられる魔力量が異なるのです」
「すまない……」
「先に、奥様のところへ行きます」
　たたっとアンナが足早になる。
「では、水と飲み物を準備しましょう。レナート様も先にお部屋にお戻りください」