あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「ああ、言ってなかったか?」
「聞いてません」
 両親はすでに亡くなっていると聞いていたし、このような立派なところで当主を務めているくらいだから、まさか兄がいるとは思ってもいなかった。
 ウリヤナが頬をふくらませると、レナートがそれを指でツンとつつく。
 ウリヤナもわかっている。彼はわざと黙っていたわけではないのだ。本当に伝えるのを忘れていただけ。もしくは伝えていたと思い込んでいただけ。
 そういう人間なのだから仕方ないとは思いつつも、なぜか悔しいとさえ感じる。
「悪かった」
 ポンと頭を撫でたレナートは、そっと唇を重ねる。こうやって、さりげなく彼と口づけを交わすようになったのも、悪阻が落ち着いてからだった。
 どちらからというわけでもなく、自然とそうなった。夫婦であるならば、何もおかしくはないだろう。
「もう……」
 うまく騙されてしまったような気もするが、それすら嫌な気はしない。
「また来る」
 そう言って微笑んだレナートは、部屋を出て行った。

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