あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 だけど、レナートが会わせたいと言った人物が、ローレムバ国の国王だなんて聞いていない。
 アンナから「国王陛下がいらっしゃいました」と言われたときは、何があったのかさっぱりわからなかった。
「お兄様ではなかったの?」
「兄だ」
「だけど、国王なのでしょう?」
「だから、兄が国王だ」
「ちょっと待って。あなた、ローレムバ国王陛下の弟ってこと?」
「ふっ、ははは……あいかわらずだな、レナートは」
 レナートが会わせたいと言っていた人物が、ウリヤナの目の前にいる。
 黒い髪は後ろになでつけられ、額がすっきりと出ている。顔を覆うほどの長ったらしい髪のレナートとは大違いだ。それでも、顔の造りはなんとなくレナートに似ている。
「あぁ、すまない。この愚弟が、何も言っていなかったのだな? 私はランベルト・クインシー・ローレムバ。まぁ、そこにいるレナートの兄だ」
 ウリヤナも背筋を伸ばして、名を告げる。
「お初にお目にかかります。ウリヤナ……と申します」
 ウリヤナ・カールと名乗りそうになり、そこで息を呑んだ。レナートと婚姻関係にあるのだから、もうカールではなくザフロス姓を名乗らなければならない。
「いやぁ、まさか。あのレナートが隣国から嫁さんを連れて帰ってくるとは、思ってもいなかった」
 くだけたその言い方は、家族に対する言葉なのだろう。
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