あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 そもそも聖なる力が出現したのに、神殿の管理下に置かれないことが特例だ。その特例を作ったというのであれば、神殿よりも強い力が働いたということになる。つまり、王族の力。もしくは金の力。
 それは、どちらも当時のウリヤナにはなかったものだ。
「あ、でもぉ。ウリヤナは力を失ったのよねぇ? となれば、神殿からも追い出されてしまうのかしら? あらぁ、かわいそう。もちろん、カール子爵家には戻れないわよねぇ。婚約も解消されて、聖女ではなくなったからだなんてぇ。恥ずかしくて、両親に合わせる顔がないでしょう?」
 ね? とまた二人は顔を見合わせている。
「いいことを考えたわぁ。家にも戻れない、神殿にもいられないあなたは、私付きの侍女なんてどうかしらぁ?」
 今まで聖女だった者が侍女に、侍女だった者が聖女に――。
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、私にはやりたいことがありますので」
 絶対に泣かない。怒りを滲ませてはならない。
 腹の底で腸が煮えたぎるくらいの感情に侵されていたとしても、それを絶対に顔に出してはならない。
「そう……。だったらぁ、早急にこの場から立ち去るのね。あなたが泣いて私の侍女として働かせて欲しいと懇願したら、今までと同じように友達を続けてあげようと思っていたのだけれどぉ」
 コリーンはクロヴィスに顔を向けて「ね」と首を傾げている。
 何かあるたびに、こうやって二人で示し合わせたように視線を合わせる行為に、虫唾が走る。それに、語尾を伸ばすような喋り方も、耳障りだ。
「力を失った元聖女様も、プライドだけは高いのだな。こちらのお情けはいらないのだろう。君が望むならばコリーンの侍女として居場所を与え、側妃にでもと考えていたのだが……。即刻この場から立ち去るがいい」
 聖なる力を失ったウリヤナは、この日、婚約者と友人を失った――。
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