あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 彼女が何について聞いているのか、レナートにはわからなかった。
「その。私、もう休もうかなと思ったので……」
「そうか。では、一緒に戻ろう。俺もそろそろ終わりにしようと思ったところだ」
 彼女の顔が、ほっと緩んだ。
 ウリヤナはいつも礼を口にはするが、自分の気持ちを言葉にはしない。普段なら、魔力の流れでなんとなくそれを読むのだが、彼女からはそれすら感じられない。
 だけど、ウリヤナが言いたいことはなんとなくわかるのだ。
 彼女の手をとって、寝室へと向かう。
 お腹も大きくなって足元も見えないだろうから、ゆったりと歩くのだが、彼女が身体を預ける様子が愛おしい。
「レナートは、お義兄さんと仲が良いのね」
 寝室にあるソファで、二人で寄り添っていると、彼女がぽつんと零す。
「まぁ。仲が良いというのかどうかがよくわからないが。昔からあんな感じだ」
「男同士だからなのかしら?」
「さぁな。他の兄弟がどうとか、よくわからん。それよりも」
 レナートは話題を変える。イーモンのことを出されたら、言ってはならないことを言ってしまうかもしれないからだ。
 いつかはウリヤナに伝えなければならないことであるが、それは今ではない。彼女の心身に負担がかかるような行動は慎みたい。
「いつも、クッキーを焼いていたのか?」
「……あっ」
 彼女が不意に顔を逸らす。
「ロイから聞いたの?」
 顔は逸らしたまま。
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