あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「ん? あ、あぁ。兄が美味いと褒めていた。どこの店のものか聞いたら、ロイがウリヤナが作ったものだと言ったからな。それで知った」
「そう……ロイには、レナートには言わないようにって言ってたのに」
 だからレナートは知らなかったのだ。
「どうして?」
「だって、恥ずかしいじゃない……」
 耳まで赤くなっている。だからその言葉も嘘ではないのだろう。
 レナートは彼女の手に、自身の手を重ねた。
「俺は、ウリヤナが作ったものと知らずに、無意識のうちに全部食べていたとロイに言われた」
「そ、そう……」
「だから、また作ってくれるか?」
 そこでやっと、彼女はこちらを見た。頬も赤い。
「そうね。あなたが望むなら」
「これほど、望んでいるというのに?」
 ちゅっと音を立てて、短く唇を重ねた。
「もう……」
 照れたような笑顔も可愛い。
 レナートも、一人の女性に対して、こういった気持ちが沸き起こるのに戸惑いすら感じていた。自分には絶対にないだろうと思っていた、人を想う気持ち。
 それを教えてくれたのがウリヤナなのだ。
 だからこそ手放したくないと思うし、一生、側にいてほしいとも願う。
 彼女を守るためにはやはりあのクロヴィスをなんとかしなければならないだろう。ランベルトの話を聞く限りでは、ウリヤナに対する執着が気になるところ。
 もしかしたら、今もウリヤナを探しているかもしれない。となればイーモンを使ってくる可能性が高い。
 レナートは彼女と触れ合っている手に、静かに力を込めた。
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