あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 腸が煮えくり返るくらいの怒りが込み上げてきた。人が優しく接していればつけあがる。だが、その気持ちすら吞み込んで、猫なで声をかけてやる。
「どうしたんだ? これは、断れない話だ。なぜ行けない? 理由を教えてくれないとわからないだろう?」
「……怖いのよ……」
 コリーンは自分の身体を両手で抱きしめる。
「怖いの。ここから出たら、みんな私を責める」
「責める? どうして?」
「みんなの声を無視してるから」
 その自覚はあるようだ。
「だったら、その声に応えればいいじゃないか。まずは近いところから、そして地方に足を伸ばせばいい。みんな、聖女が足を運ぶのを待っている。聖女の力を必要としているんだ」
「だけど、ダメなの……。聖なる力は、使ったらなくなっちゃうんだから。なくなったら、私はもう、()()にはいられない」
「聖なる力は、使ってもなくならない……」
「嘘よ。なくなる。だって、ウリヤナはそれを失ってここを追い出されたのでしょう? あなたから……」
 クロヴィスはぐっと拳を握った。怒りの感情をその中に閉じ込める。
「……追い出したわけではない。あの場には君もいただろう? ウリヤナは、ウリヤナなりにやりたいことがあったんだ」
「だけど、聖なる力は……」
「歴代の聖女たちで、力を失ったという前例はほとんどない。むしろ、ウリヤナくらいだ」
 だから大丈夫だと、彼女の耳元で優しくささやく。
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