あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「大丈夫?」
 無垢な子どものように、クロヴィスを見上げてくる。
「ああ、大丈夫だ。だから力を使ってもいい。きっと、みんな喜んでくれる」
 むしろ使ってくれないと困るというもの。
「……考えておくわ」
 コリーンからこの言葉を引き出せただけ、一歩前進とも言えるだろう。
「では、この招待状も出席の返事をしておくが、問題はないな?」
「……えぇ」
 そう返事をしたコリーンの身体は、小刻みに震えていた。

 イングラム国の王都ネーウから、ローレムバ国のザフロス辺境領までは馬車で丸三日かかる。
 いつもよりもみすぼらしい馬車に乗せられ、クロヴィスははたと思った。
「アル、ローレムバに向かうのにこのような馬車でよいのか?」
「殿下。今、我が国の状況はけしてよいとは言えません。いかにもといった目立つような行動をされますと、狙われてしまいます」
 アルフィーが真剣な顔でそう言えば、クロヴィスも納得する。とにかく、イングラム国内の状況は悪い。日に日に悪化していくのだが、今の状況において手の打ちようないのだから仕方ない。今、できることをせいいっぱいやっているつもりである。それでも間に合っていないのが現状でもある。
 コリーンはおそるおそるといった感じで馬車に乗っていた。そんな彼女の目はどことなく死んだ魚を思わせた。
 ここ最近の彼女は酷い。
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