あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 修道院は信者たちが共同生活を送る場である。神の住まう場所とされ、神と共に生活している者たちがいる神殿とは、生活様式も異なる。
 また、国内にはいくつかの修道院があるが、それのどこもが国の外れにある。修道院と孤児院を国の外れ――国境におくのは、隣国へのけん制のためでもあった。隣国がこのイングラム国に戦をしかけようとするならば、最初に犠牲になるのが修道院と孤児院にいる者たちだからだ。
 ウリヤナは、北の国境の町ソクーレにある修道院へ行こうと決めていた。
 ここは、国内に数ある修道院の中でも最も規律が厳しいと言われている。
 ウリヤナは自らその生活を望んだ。厳しく忙しいほうが、余計なことを考えずにすむ。
「ウリヤナ様……」
 神殿をそっと立ち去ろうとしていたのに、いつもウリヤナを気遣ってくれた侍女に見つかってしまった。彼女は、この神殿で働いている。
「私たちは、いつでもウリヤナ様が戻ってこられるのをお待ちしております。ウリヤナ様のおかげで私たちは……」
 言葉の先は嗚咽に飲み込まれる。彼女の目からは、ぼたぼたと涙が溢れていた。これだけでも彼女がウリヤナを慕っていた気持ちが伝わってくる。
「ありがとう。あなたのその言葉だけで充分だわ」
 侍女は涙をこらえようと、必死に笑顔を作った。
 ウリヤナの我儘でソクーレに向かうのに、神殿で働いている御者の男も乗り合い馬車乗り場までウリヤナを連れていってくれると言う。それは神官たちも許可を出したとのことだった。
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