あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 ウリヤナは、生まれた子を乳母の手を借りながらも自分の手元で育てていた。
 レナートは小さな命の重みを腕に抱える。
「飲んだら、もう寝たぞ?」
 それでも、もぐもぐと口元を動かしている赤ん坊は、夢の中でもお乳を飲んでいるのだろう。
 この子は飲むか寝るかしかしていないようにも見える。もっといろんな表情を見せてほしいのに。
「レナートに御礼を伝えてほしいと、お父様から手紙が届いたのよ」
 そういえば、今日は彼女宛てに手紙が届いたような気がするし、それがカール子爵家のものだったかもしれない。
「礼?」
「イーモンのことよ」
 イーモンはウリヤナの二つ年下の弟である。
 彼は、学生のときに質の悪い友人に騙された。むしろ、洗脳されていたといってもいいだろう。
 実際、彼はそういった魔法に魅入られていたのだ。ウリヤナや両親ももしかしてと思ったようだが、確信もなかったし、彼らの力ではどうにもできなかった。そもそもイングラム国には魔術師が少ない。
「お前の弟だからな」
 息子を抱いたまま、彼はウリヤナの隣に座る。
「お前の話を聞いておかしいと思った。いくらなんでもあの年の学生が家の金に手をつけるのは、変だろう?」
 イーモンが屋敷の金庫から勝手に金を持ち出していた。それがきっかけとなり、カール子爵家は一気に傾いた。だが、ウリヤナが聖女となり褒賞金で立て直したのだ。
 その話を聞いたレナートは、人を使ってこの件を調べていた。
 その結果――。
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