あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 やはりクロヴィスが黒幕だった。彼の幼馴染みであり人望のあるアルフィーの名を使って、イーモンと接触した。
 屋敷の金を盗ませ、カール子爵家を窮地に立たせる。
「イングラム国にとって、カール子爵家は汚点のような存在なのよ」
 それはカール子爵家が商人の出だからと、ウリヤナは言う。まして爵位を授かってから、彼女の父親で三代目であり、歴史ある家柄とも言えないようだ。
 血筋と伝統を重んじるイングラム国にとって、カール子爵家は異端といえる。
「私が聖女となったから婚約したようなものだけれど、きっとカール子爵家から聖女が輩出されたことも、許せなかったのでしょうね」
 こちらに来てから落ち着いた彼女は、そう思っているようだが、少なくともクロヴィスの想いはそれとは異なるもの。
 彼は、間違いなくウリヤナを好いていた。いや、今も彼女に想いを寄せているはずだ。
 だけど、それをわざわざレナートが彼女に教えてやる必要もない。
 なによりも、クロヴィスが思い描いていたシナリオはそこから先が重要だった。
 窮地に立たされたカール子爵家に王家が援助の手を差し伸べる。その代わりウリヤナを手に入れる。それが彼の描く内容だったのだ。
 それにクロヴィスは、イングラム国の魔術師ともつながっていた。テルキの街で起こった爆発事故。あれは、違法な魔石が原因であったのだが、その違法魔石のやりとりを指示していたのもクロヴィスであった。
 商人風の男の犯人は、イングラム国の王城内にある地下牢に捕らえられていたようだが、その後、どのように処分されたかはわからない。
< 166 / 177 >

この作品をシェア

pagetop