あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 申し訳ないと思ったのか、彼女は少しだけ目尻を下げた。
 そんな顔をされたら、レナートはもう何も言えない。
 小さく息を吐く。
 すると、息子が険しい顔をし始めた。これから何が起こるのか、ウリヤナもレナートもわかっている。
「あ。すぐに浴室に連れていって」
 レナートは、彼女の腕から可愛い息子を預かると、急いで浴室へと向かった。

 ほかほかと温まった小さな息子は、喉が渇いたのかまた飲んだ。そして今は両手を握りしめて眠っている。
「本当に寝るか飲むかの子だな」
 レナートも、濡れた髪に風魔法を使って乾かしている。これを初めてウリヤナに見せたときは「こういう魔法の使い方もあるのね」と驚いていた。今はもう、慣れた光景でもあるようだ。
「いやぁ。一時期のレナート様にそっくりですよね。寝るか飲むかって。そしてこの顔もレナート様にそっくり」
 ウリヤナの腕の中で眠っている赤ん坊の頬をツンツンとつつくのはもちろんロイである。
「お茶が入りましたよ。それでは」
 丁寧に腰を折ったロイは、すっと下がった。
「ウリヤナ」
 レナートは愛する妻の名を呼んだ。彼女は、くりくりと目を見開いて見上げてきた。
 その隙に、唇を重ねる。
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