あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 彼女に触れられた喉が熱い。だけど、ひりひりとした痛みが引いていく。最後に彼女は頬を撫でた。ピリっとしたあの痛みもなくなった。
「……ウリヤナ」
「しっ」
 彼女は、クロヴィスの唇の前に人差し指を当てた。
「お声が出るようになってよかったです」
「聖女ウリヤナは慈悲深いからな。とにかく今は、その怪我を治すことだけを考えろ。その後のことは、追って連絡する」
 男がどこか勝ち誇ったかのように微笑んだ。そして彼は、彼女の腰を抱くようにして、部屋を出る。
 パタン――。
 扉がしめられ、部屋に静寂が訪れる。
 身体はまだ重くて動かない。だけど、声は出るようになった。それは彼女の聖なる力のおかげだろう。
 彼女は間違いなく聖女だった。力は失われてはいなかった。
 閉じられた扉を、じっと見つめる。その扉は涙でゆがんでいく。

 クロヴィスはこの日、愛する女性と子を失った――。

【完】
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