あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 男の子は母親の服の裾を引っ張り、何かを話しかけていた。女性も顔をあげ、ウリヤナに視線を向けると頭を下げた。ウリヤナも同じように頭を下げる。
 たったそれだけの仕草であるのに、急に親しみを感じた。
 はぁ、と深いため息が聞こえた。
 これの主はもう一人の男性だろう。
 嫌なヤツらと一緒になってしまったと、無言で訴えているに違いない。
 ウリヤナは、それに気付かなかった振りをして座席に深く座り直すと、荷物を両腕に抱え込んで目を閉じた。
 力を失ったウリヤナが北のソクーレまで移動することを、神殿にいる者たちは非常に心配していた。理由は一つ。ウリヤナに聖なる力もなく魔力もないからだ。
 魔力がないのは、聖なる力が魔力を包含していたからで、その聖なる力を失ったと同時に魔力も失ったのだ。
 そのため神官たちは、彼女に魔力を封じた魔石をいくつか持たせた。これがあれば、魔力のない者、魔力が弱い者であっても、魔石の魔力を用いて簡単な魔法を使える。
 移動中に何かあったときにこれを使いなさいと、神官らは口にした。そうやって気遣ってくれることすら、心に染み入る。
 それでも何もないことを祈るだけだった。魔石はお守りのようなもの。それを入れた布製の鞄をぎゅっと抱きしめた。
 ガタガタと馬車は悪路を進んでいく。硬い椅子にお尻は痛くなった。
 しかしそんな不規則な揺れは、うつらうつらと眠りへと誘う。転寝と覚醒を繰り返し、休憩になれば外に出る。
 外に出た瞬間、ウリヤナはうぅっと身体を伸ばした。
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