あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それでも、その気持ちに気づかない振りをして、目尻をやわらげてウリヤナを見つめた。
『きっと、ウリヤナだからその聖なる力に選ばれたのよ。神殿に入るの? 気軽に会えなくなるのは寂しいけれど。だけど、ウリヤナならできるわ』
 聖女になった彼女は、姓を捨てる。つまり、ウリヤナ・カールという人間はいなくなり、彼女は聖女様となる。同じような地味な令嬢だったウリヤナは存在しなくなる。これからは、コリーン一人だけ。コリーンだけが、彼女たちから陰口を叩かれるのだ。
 沸々と沸き起こる恨みや羨望という名の感情に蓋をしながら、目の前のウリヤナを励ました。
 ウリヤナは、コリーンに感謝の言葉を口にした。
 その日はどうやって、自分の屋敷に戻ってきたのか、コリーンは覚えていない。
 わけのわからない感情が心と頭を支配して、泣きたいのか怒りたいのかさえもわからなかった。
 それからしばらくして、コリーンは侍女として王城に務めることとなった。父親がどこからか持ち込んできた話である。
 ――王城務めをして将来の伴侶を探せ。
 父親は口にしなかったが、そのような意図があるくらい、容易に想像できた。むしろ、ほとんどの子女がそうしている。
 だが、あの父親と離れられるのは僥倖でもあった。
 王城務めはよくもなく悪くもなく、ただコリーンにとっては父親と離れるための口実のようなものでもあると思っていた。
 同じように王城で働く者たちと知り合い、縁も広がっていく。魔術師に憧れもあったが、今の生活も悪くはない。
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