あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 あのときウリヤナに向けた負の感情が、やっと落ち着いてきた矢先、ウリヤナが王太子であるクロヴィスと婚約したという知らせが届いた。
 聖女ウリヤナと王太子クロヴィスの若い二人の婚約。
 これは国中を悦びに導く知らせであり、実際に、各地各地で祝いの催しものが開かれた。
 神との対話ができる聖女、そして次期国王の婚約となれば、誰だって明るい未来を想像する。
 それでもコリーンの心は暗いままだった。
 ――なぜウリヤナなのか。
 その思いが、コリーンの心の中で日に日に高まっていく。
 誰かがいれば気を紛らわせることができるのに、一人になると、その気持ちに支配される。さらに、コリーンに追い撃ちをかけるかのように、ウリヤナは定期的に王城へ顔を出すようになった。もちろん、クロヴィスの婚約者だから。ウリヤナは堂々と王城へ出入りする権利を得たのだ。
 いつもは神殿で祈りを捧げ、国内の状況を確認し、実りの悪い場所へは足を運んでいた彼女だ。神殿に身柄を置いた彼女は、クロヴィスとの婚約が決まる前まで、そのような生活を送っていると聞いていた。
 王城にウリヤナが出てきたときに、久しぶりに彼女と会った。以前と変わらず質素な装いである。それでも、彼女の内側からは自信とか威厳とか、そういった前向きな感情が溢れ出ていた。
 ――なんて私は惨めなのだろう。
 ウリヤナと顔を合わせると、喉の奥がつんと痛んだ。
 そんなウリヤナは、王城を訪れるたびにコリーンをお茶に誘った。
 他愛もない話をして、時間を共に過ごす。
 ウリヤナは以前となんら変わっていない。変わってしまったのは、そんな彼女に醜い気持ちを抱くようになったコリーン自身。
 だがそんな気持ちを悟られないようにと、必死に平静を装っていた。
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