あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それからしばらくして、クロヴィスの噂も聞こえるようになった。公の場ではウリヤナを隣に連れているが、それ以外――ウリヤナがいないような場所では他の令嬢を侍らせている。
 胸がズシリと重くなった。
 それとなくウリヤナにその噂を伝えたが、彼女は取り乱すようなことはせず、ただ黙ってコリーンの話に耳を傾けていた。
 クロヴィスはウリヤナをどう思っているのだろうか。ウリヤナはそんなクロヴィスに何を思っているのだろう。
 だけどクロヴィスはウリヤナとはちがう令嬢を隣におきながらも、彼女を見つめる瞳はどこか寂しそうに見えた――。

 ある日、コリーンが王城の回廊を歩いていると、一人の神官に呼び止められた。
『やや、あなた様はウリヤナ様と親しくされているコリーン様ですね』
 ウリヤナのおかげだとしても、そうやって名が広まっているのは悪い気はしない。
『実はここだけの話ですが――』
 その神官は、そっとコリーンに耳打ちした。
 ――ウリヤナ様は、聖なる力を失われてしまったのです。
 コリーンは思わず息を呑んだ。いや、呼吸の仕方を忘れてしまったかのように胸が痛んだ。
 さらに神官は言葉を続ける。
『聖なる力は近しい人間に移るとも言われています。一度、神殿で魔力鑑定を受けてもらえませんか?』
 その一言がきっかけとなり、コリーンの周辺は一変した。
 ドクンと大きく心臓が震え、全身に熱い血流がたぎった。
 神殿での魔力鑑定の結果、微力ながら聖なる力があるとわかった。あの場にいた神官の言葉は、嘘ではなかった。社交辞令でもなかった。
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