あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
『コリーン様の力はまだ微力です。神殿で力を高める訓練を行ったほうがいいでしょう』
 コリーンに聖なる力が目覚めたという話はすぐに国王の耳にも届き、彼女はすぐさま国王に呼び出された。
 国王がコリーンを見つめる眼差しは、冷たくて鋭かった。
『クロヴィスと婚約しろ。そうすれば神殿ではなくこちらにおいてやる』
 その言葉に、コリーンの全身は震えた。
 クロヴィスはウリヤナと婚約している。それにもかかわらず、クロヴィスと婚約しろとはどのような意味なのか。
『ウリヤナを見てみろ。神殿で力を高めるどころか、力を奪われた。その力を守りたければ、ここにいたほうがいいのではないのか?』
 ウリヤナが神官たちに言われるがまま、聖なる力を使っていたのは知っている。だが、その結果、彼女が力を失ったとは知らなかった。
 コリーンには聖なる力がある。ウリヤナは聖なる力を失った。
 ――勝った。
 だからコリーンは神官たちの言葉には従わなかった。せっかく手に入れた聖なる力を失いたくなかった。いつまでもこの力によって、聖女でありたい。
 コリーンはクロヴィスに接触したが、彼はウリヤナを手放そうとはしなかった。力を失ったとしても、彼はウリヤナを望んでいたのだ。あれだけ他の女性をはべらせておきながら、彼はウリヤナだけを欲していた。
 しかしコリーンはせっかく目覚めた聖なる力を守りたかった。それに、クロヴィスの婚約者という魅力的な地位もある。そこにおさまれば、未来の王太子妃だ。
 聖女であって王太子妃。誰もが羨ましがるような状況に手が届きそうであった。
 だからコリーンも、国王から『どんな手を使ってでもクロヴィスと婚約しろ』と言われたときには、国王からも望まれていると思ったのだ。
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