あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 王家は聖女の力を欲しがっている――。
 力を失ったウリヤナは必要とされていない――。
 クロヴィスの婚約者はコリーンでなければならない――。
 コリーンが聖女として招待された王族の晩餐会で、クロヴィスは珍しく盛大に酔っぱらっていた。少しだけ、彼が荒れていたようにも見えた。その原因がウリヤナにあることすら、コリーンはお見通しだった。
 だが、ウリヤナはこの場にいない。彼女は神殿を生活の拠点としているため、こういった催し物にはよっぽどのことがないかぎり参加しないのだ。いや、むしろ国王が招待をしなかったのだろう。
 今日のこの晩餐会は、コリーンをクロヴィスと引き合わせるために開かれたものだから。
 クロヴィスを自室まで送り届けたのはコリーンであり、彼女はそのまま彼の部屋で朝を迎えた。
 あのときのクロヴィスの慌てようは、今思い出しても笑いが込み上げてくる。
 国王からは「よくやった」と褒められ、クロヴィスはそんな国王から責任を取るようにと詰め寄られていた。
 ここからは話がとんとんと進む。
 クロヴィスもどこか諦めがついたのだろう。
 ウリヤナを呼び出すと、婚約解消を突き付ける。その様子を、コリーンは隣の部屋から見ていた。
 心を強く持つ。
 クロヴィスの婚約者になるのだから、地味な装いであってはならない。自信を持たなければならない。
 そう自分に言い聞かせ、心を奮い立たせる。
 クロヴィスに呼ばれたコリーンが彼の隣に座っても、目の前のウリヤナは表情を一つも変えなかった。
 ただ、侮蔑の眼差しを向けていただけである。
 彼女の顔を歪ませたくて、コリーンはいろいろ言葉を口にしたが効果はなかった。
 それでもクロヴィスが彼女を側妃に迎えたいと思っていたとは知らなかった。力を失ったとしても、クロヴィスはウリヤナを手放したくなかった。
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