あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 膝をつき、倒れている女性を確認する。
「彼女は?」
 止血していた女性から布地を受け取り、傷口をきつく縛り上げる。そこに、固定魔法をかけたので、しばらくすれば血も止まるだろう。これで止まらないようであれば、縫う必要がある。
 怪我をすぐに治せるような魔法はない。それは、『聖なる力』と呼ばれる領域である。
「お前の姉なのか?」
 男の子に尋ねると、彼は勢いよく首を横に振った。あまりにも激しくて、首が外れてしまうのではと心配になるほど。
「おねえちゃんは、馬車でいっしょになった」
 爆発した簡易宿は、馬車移動の中継点にも使われていたようだ。
「ぼくたち、ソクーレにいくところ」
「ウリヤナさんはソクーレに向かわれていたのです。その馬車で一緒になりました」
 先ほどまで倒れていた女性の止血をしていた女性は男の子の母親なのだろう。男の子の言葉を補足するかのように口を開いた。
「ウリヤナ……」
 目を閉じたままの彼女の名を口にする。どこかで聞いたことがあるような名。心の中がざわつく。
 だが、それよりも気になっていることはある。
「そういえば、先ほど。彼女が助けてくれたと言っていたが?」
 爆発規模のわりには怪我人が少ない。それがレナートの印象である。だから、男の子のその言葉が気になったのだ。
 できるだけ圧を与えぬよう、穏やかな口調を心掛けて、男の子に向かって尋ねた。子どもは嫌いではないのだが、子どものほうから恐れられるのがレナートという男でもある。
「はい。ウリヤナさんが魔法を使って、私たちを助けてくれたのです。だから、私たちもこうやって……」
 母親が答えてくれるなら、レナートとしても助かる。
「だが、彼女は……」
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