あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 レナートもそう思い始めていた。直接マシューと会って、彼からは大した魔力を感じられなかったのだ。無意識に思念伝達魔法を使ったというのも考えにくいだろう。
 ――もしかして、彼女の力なのか?
 腕の中で気を失っている、ウリヤナという女性。魔力がないのに魔法を使った。そして、感じるもう一つの力。
 とにかく彼女は興味深い。
 宿に戻ると、エントランスですぐさまロイに見つかってしまった。
 彼はレナート付きの従者であり、レナートが出かける場所には漏れなくついてくる。
「レナート様。いったいどこから出て、どちらに行っていたのですか? 今、そこの宿が爆発したと大騒ぎです。それに、こちらの方々は……」
 いつもであればツンツンと尖っている彼の茶色の髪が乱れているのは、走り回ってレナートを探していたからだろう。少し、息もあがっているようだ。それでもレナートの姿を見て安心したのか、目尻をふと緩めた。
 彼の立場を考えれば、これだけ焦るのも無理はない。悪いことをしたと思いつつも、まずは彼らをなんとかしなければ。
「まあ、詳しい話は後だ。俺が借りている部屋、隣の間が空いていたよな?」
「はい」
「そこにこの母子を」
「こちらの女性は?」
 ロイの視線は、レナートが抱えているウリヤナで止まる。
「少し治療する必要がある」
 ロイは「承知しました」と深く腰を折ると、母子を部屋へと案内する。
 レナートは、腕に抱えているウリヤナを抱きなおした。
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