あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「傷口は痛まないか?」
「傷?」
「マシューをかばって怪我をしたと聞いている。縫うほどではなかったが、それでも大きな傷だったから」
 レナートが指さしたのは、ウリヤナの右腕である。そこには包帯がぐるぐるとまかれていた。
「はい。大丈夫です」
 問われるまでわからなかったのだから、痛くはない。
「そうか。それはよかった。とにかく今日はもう休め。もう少し、水でも飲むか?」
 それには首を横に振って答えた。
「俺はそっちで寝るから。何かあったら、呼んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
 その言葉を聞いたレナートは、口元を緩めた。何か言いたそうにしていたが「おやすみ」とだけ言って、寝台の周りの明かりを弱めていく。
 ウリヤナはもう一度横になった。
 彼のことがよくわからないし油断はできないと思いつつも、心の奥にあたたかな光が灯ったような気分だった。

 太陽の光が、カーテンの隙間を狙って部屋に差し込んできた。
 目を開けて身体を起こすと、寝台の脇に新しい着替えが用意されていた。
「目が覚めたか? 具合はどうだ?」
 寝台の上でぼんやりとしているウリヤナに声をかけてきたのは、レナートだった。
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