あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「ところで、お前たちはソクーレに向かうと言っていたな」
 レナートは目の前に座っているマシューに尋ねた。
「ソクーレは、おかあさんが生まれたところだよ」
 マシューの明るい声が、その場を和ます。
「そうか。ウリヤナは?」
 今度は左を向いて、ウリヤナを見つめる。
 彼はウリヤナが聖女であることを知っている。そのような女性が、お供をつけずにソクーレに向かっているのを不思議に思っても仕方ないだろう。
「少し俗世から離れたいと思いまして」
 彼が賢ければこの一言で理解してくれるはずだ。
「そうか……。では、ウリヤナには目的がないのだな?」
 どうやら賢いわけではなかったようだ。
 彼はどことなく口角をあげて、嬉しそうに微笑んだ。だからその笑みから顔を逸らして、目の前のパンを二つにちぎる。
 朝食が終わると、マシューとナナミは与えられた隣の部屋へと向かった。そうなれば、ウリヤナはレナートと二人きりになってしまう。
 彼の従者のロイも紹介されたが、そのロイはいろいろと動きまわっているらしい。昨日の事故があったため、確認することもあるのだろう。
「ウリヤナ。お前はソクーレの修道院へ行くつもりなのか?」
 寝台を整えていたウリヤナの背に向かって、レナートが声をかけた。動かしていた手を止める。
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