あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
「すまない……ロイからも、ずかずかと物事を言い過ぎると注意を受けているのだが」
 レナートは腕を伸ばして、ウリヤナの頬に触れた。何かを拭うような動きにも見えた。
 ウリヤナは驚いて目を瞬いたが、自分よりもいくらか年上に見える彼が、雨に濡れて震えている子犬のように見えてきた。思わずクスっと笑みを零す。
「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません。その……子を授かったことにまったく気づいていなかったので」
 だが、そういった行為に及んだ事実はある。月のものもきていない。冷静になれば思い当たる節など多々あるのだ。
 彼女の言葉にも、レナートは大きく目を見開いた。その顔は「すまなかった」と言っている。
「悪かった……では、まだ医師にはみてもらっていないのだな?」
「はい」
「わけあり、なんだな?」
 ウリヤナは元聖女である。そして、イングラム国の王太子の婚約者でもあった。そのウリヤナが子を授かったとなれば、自然とその相手はわかるだろう。
「はい……ですが、レナート様は私のことをご存知なのですよね?」
「名前を聞いたことがあったからな。それでピンときただけだ」
 民からは「聖女様」と呼ばれていたため「ウリヤナ」という名は伝わっていないと思っていた。その名が通じるのは、王城と神殿のみだと思っていたのだ。
「それで。お前は修道院へいくつもりなのか? 悪いが、子は間違いなく授かっている。お前が不安になると、腹の子も不安になる。お前が喜べば、腹の子も喜んでいる」
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