あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 たったそれだけなのに、レナートの胸の奥から棘が抜け、ぽっと熱くなる。熱くなった血流は全身に行き渡る。火がついたかのように、鼓動が激しくなる。
 そこで沈黙が落ちた。レナートは、ぐっと拳を握った。
「……だから、お前さえよければ、俺をその子の父親にしてくれないだろうか」
「レナート様は、それでよろしいのですか? 私は、力を失った聖女です。魔力もありません。まして、この子はあなたの子ではないのです」
 ウリヤナの言葉に間違いはない。彼女からは魔力をいっさい感じない。
「問題ない。胎児には俺が魔力を注ぐ。だから生まれてきたときには、俺の子になる。それに、お前が魔法を必要だと思ったら、俺がかわりに魔法を使ってやる」
 おかしい。彼女と初めて会ったのは昨夜。そして言葉を交わしたのはほんの数時間前。それなのに、気になって仕方ない。彼女が気になるのか、お腹の子が気になるのか。いや、すべてをひっくるめて、ウリヤナという一人の女性が気になるのだ。
 そんなウリヤナはレナートから視線を逸らし、自分の腹部を見つめた。彼女は今、その腹部を両手で触れている。
「突然、こんなことを言われても困るだけだよな。だけど、考えてほしい……。その身体で修道院は無理だ。だが、俺ならお前をその子ごと受け入れる」
 ウリヤナは返事をしない。
 どうやって気持ちを伝えたらいいかがわからない。いや、レナート自身も、自分の気持ちがわからないのだ。だけど、ウリヤナの側にいたい。ただそれだけだというのに。
「俺も、ロイから注意されるくらい言葉が足りないから、その……。気を悪くさせたら申し訳ない」
「……いえ」
 彼女のその一言で、レナートは胸をなでおろした。
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