あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それからレナートは、ロイに幾言か言づけをして、宿を出た。目的地は、昨日の爆発のあった簡易宿。
 明るい場所で現場を見ると、目を背けたくなるような惨状だった。焦げたにおいが、周囲にまで漂っている。
 だが、この状態で死者が出なかったのは幸いだった。マシューの母親が言うには、ウリヤナが魔法を使ったとのこと。だが、彼女から魔力を感じない。
 爆発時に何が起こったのかは、彼女から聞けばいいだろう。
「この宿に泊まっていた者の調査は、もう終わりか?」
 現場の責任者と思われる騎士に声をかけると、彼は嫌そうな視線をこちらに向けてきた。
「なんだ、部外者はあっちへ行け」
「部外者だが……。では、この宿に泊まっていた者に用はないんだな」
「ああ。死人も出なかったし、犯人も捕まったしな」
 しっしっと犬でも追い払うかのように、責任者は手を振った。
 となれば、ウリヤナたちをここにとどめておく必要はない。
 彼女と彼女の子を考えれば、早くこの場を立ち去ったほうがいいだろう。むしろ、この国から。

 レナートはウリヤナたちと共にソクーレへと向かった。
 道中、マシューは何度もレナートを「おじさん」と呼び、そのたびに訂正をいれる。その様子を見ていたウリヤナはくすくすと笑みをこぼした。
 ソクーレでマシューたちと別れた。母親の生まれ育った家がここにあるから、そちらに向かうとのこと。
 レナートたちは、今日はここで一泊し、明日、関所を越えてローレムバ国へと入る。
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