あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それはローレムバ国が魔術師の国だからだ。ローレムバ国から魔術師を誘拐し、自国に匿うという事件が、過去にはあった。そのため、ローレムバ国への入国は厳しく管理されている。
「ですが、レナート様と婚姻関係があれば、その面倒な調査がすべてなくなります。場合によっては、二日も三日もかかるような調査です。我々としては、あの関所に三日もいたくありません」
「そうなのですね」
 ロイの説明には少し脅しが入っているような感じがしたが、ウリヤナはそれに気づかなかったようだ。
 レナートを見上げる彼女の眼差しは、やわらかい。
「レナート様は、この子の父親になってくださるとおっしゃいました。となれば、私とレナート様が、そういった関係であってもおかしくはないですよね」
「そ、そうだな……」
 今に始まったことではないが、レナートの心臓は跳ねていた。ドクドクと音を立てて、全身に熱い血液を流している。おもわず右手で胸を押さえる。
 その様子をロイが怪訝そうに見つめる。
「レナート様。結婚は愛がなくても理解があればできるものです。ですが、そんな思春期男児のような顔をなさらないでください。見ているこちらのほうが恥ずかしい」
「う、うるさい」
「そんなわけでウリヤナ様。レナート様をどうか末永くお願いします。この人、自覚ないけど、ウリヤナ様のことを好いています」
「なっ……ロイ。余計なことを言うな。それよりも、食事の用意ができているか、宿に確認してこい」
 失礼しますと、頭を下げたロイは部屋を出て行った。
 小さく息を吐くと、激しかった心臓が、ゆるゆると元に戻っていく感じがした。
「すまない。ロイが余計なことを言ったようだ」
「いえ」
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