あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 今、イングラム国では農作物の育ちが悪い現象が起こっていた。
 突然、地方の作物の育ちが悪くなったのだ。そのため、収穫量も減っている。一時的な場所で一時的なものであれば、備蓄している食料で難をしのげるが、その声がぽつぽつと他からもあがってきているのが解せない。つまり、地方のいくつかでは、すでに備蓄している食料が足りなくなると見積もっている。
 となれば、彼らは聖女に助けを求める。聖女の癒しの力で痩せた土地を助けてほしいと、そういった嘆願書が届き始めた。
 実際、アルフィーが持ってきた書類の大半は、そのような内容ばかりである。最初は一通であったその嘆願書も、次第に数が増えていく。
 クロヴィスが視察のために足を延ばすが、原因はさっぱりとわからない。クロヴィスには聖なる力もないし、あるのは人並みの魔力のみ。クロヴィスの力で、現状を変えるのは難しい。
 こうなれば聖女の出番なのだが、今、聖女と呼ばれる女性はコリーンしかいない。コリーンを現地に連れ出そうとすれば「遠い、疲れる、汚い」と言い、けして王城から離れようとしない。
 神殿で祈りを捧げて欲しいと頼んだが、それすら拒まれる。特例を認められている聖女だからこそ、神殿に行かなくてもいいと言い出す始末。
 コリーンは聖女でありながら、聖女の力を使うことを拒んでいるように見えた。むしろ、本当に聖なる力を持っているのだろうか。
 次第に、そんな疑いすら持ち始める。
 ――ウリヤナだったら……。
 彼女がいなくなってから、何度もそう思った。
 ――ウリヤナだったら、すぐに祈りを捧げてくれただろう。
 ――ウリヤナだったら、すぐに現地に足を運んでくれただろう。
 ――ウリヤナだったら……。
「それで、ローレムバ国はなんて?」
 アルフィーの声で、我に返る。
< 68 / 177 >

この作品をシェア

pagetop