あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 つまり、クロヴィスがアルフィーのものを欲しいと言いそして奪われることは、ハウル侯爵家にとっては名誉に値するらしい。
 アルフィーとしては、自分が大事にしていた物をとられたわけだから、名誉だと思うよりも悔しさが勝っていた。
 それ以外にも、クロヴィスは何かとアルフィーに我儘を言って、困らせる。もしかしたら困っているアルフィーを目にして、楽しんでいたのかもしれない。彼はいつも笑っていた。
 しかしクロヴィスにとっての一番の友人はアルフィーであるため、それはハウル侯爵も鼻にかけていた。さらに、そのままクロヴィスの側近におさまるようにと、アルフィーに発破をかける。それが責務としてアルフィーの背にのしかかる。
 この国では、地位ある者の子は、十歳から十五歳までの五年間、王都にある学院で学ぶ義務があった。それはクロヴィスだって例外ではなく、アルフィーもまたそれの対象となっていた。
 それを免除する方法もあるのだが、多額の寄付金が必要であるとも聞いている。そこまでして学院通いを拒否したいとは思わず、むしろちょうどいい暇潰しのようにも考えていた。クロヴィスさえいなければ。
 そのクロヴィスこそ学院通いを免除すればいいのに、なぜか彼は真面目に五年間、学院へと通ったのだ。
 転機がやってきたのは、十六歳になった年だろう。クロヴィスが立太子し、王太子となる。
 彼から信頼を得ていたアルフィーは、学院卒業と同時に文官として王城に出仕し、そのままクロヴィスの補佐についた。王太子の側近と呼べるような立場を手に入れたわけである。
 そして彼が、一人の女性に心を寄せていることに気がついた。
 それが、一つ年下のウリヤナ・カールだった。
 クロヴィスは彼女が学院に入学したときから、何かと気にかけていた。
 ウリヤナはけして派手な女性ではなかった。コリーン・エイムズと仲が良いようで、二人は合わせて『地味二人組』と呼ばれている。こういった呼び名をつけるのは、彼女たちよりも優位に立ちたいと思っている者たちだろう。
 肝心のその二人は、そんな呼び名に屈することなく、振舞っていた。
 クロヴィスがなぜ、彼女に想いを寄せるのか。
 その理由だけはアルフィーにもわからなかった。

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