あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 クロヴィスが王太子となった一年後、ウリヤナはデビュタントを迎えた。彼女をダンスに誘いたそうにもじもじとしているクロヴィスを見るのは、面白かった。
 普段はいばり散らしているくせに、たった一人の女性の前では、何もできない男なのだと心の中であざ笑う。欲しいものは必ず手に入れる男であったのに、一人の女性に手を焼いている。
 デビュタントで国王に挨拶を終えた女性は、魔力鑑定を受けるのがこの国の慣例となっている。
 その魔力鑑定が終わってから、ダンスに誘ってみてはどうだろうかとクロヴィスに助言すると、彼は「そうする」と小さく答えた。
 こんなに自信のないクロヴィスなど、初めて目にしたかもしれない。心の中で大笑いをしながらも、そういった感情はおくびにも出さない。
 魔力鑑定を終えたウリヤナは、父親であるカール子爵と楽しそうに踊っていた。
 近頃、カール子爵家は資金繰りに苦しんでいるとは聞いていたが、そのような話を払拭させるくらい、彼女は輝いていた。
 クロヴィスが、彼女をダンスに誘おうと動いた様子が見えた。しかし、それよりも先に、ウリヤナは父親と一緒に帰ったのだ。
 悔しそうに顔をしかめるクロヴィスを目にするのは、いい気味だと思った。どこかアルフィーの心が晴れたような気がした。このまま、彼女を手に入れられなければいいのに。

 それから数日が経ったある日。
 十数年ぶりに聖女が現れたという話が、国内に広まった。
 聖女が持つ力は通常の魔力とは異なる。聖なる力とも癒しの力とも呼ばれる力で、人々を痛みと苦しみから解放する力なのだ。
 聖女誕生の報告に、国民は沸き立った。
 聖女さえいれば、ぽつぽつと起こる災害や不作から守ってもらえ、苦しい生活を送らなくてすむだろう、と。
 過去にもそういった力で、聖女は人々の暮らしを守っていたのだ。
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