あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それは、ウリヤナが神殿に金で買われたようにも見えた。
 けれどもそれは、ウリヤナ自身が望んだこと。
 ウリヤナが聖女として神殿で生活をし始めてから一年後――十七歳になった年に、イングラム国の王太子であるクロヴィスと婚約をした。
 クロヴィスはウリヤナよりも一歳年上であり、十六歳のときに立太子した。身分の高い彼は、それに相応しく、しなやかな体躯と美貌を持ち合わせており、姿を現すだけで周囲からは感嘆の声が漏れ出る。
 彼の姿を一目見た女性は、すぐさま彼の虜になるとも言われていた。男性であっても、彼の巧みな話術にのせられ、信者になると。
 聖女であっても、ウリヤナにはカール子爵令嬢として振舞や教養を身に着けていた実績がある。そのため、クロヴィスの婚約者になるにはなんら問題はなかった。
 ただ、最近のカール子爵家は資金繰りに困っていた。だから、聖女という肩書がそれを後押ししてくれたのだ。
 出会ったばかりの彼は、いつもにこやかな笑みを浮かべており、ウリヤナの名を甘く囁いた。それがウリヤナにとっては、くすぐったいものだった。
 しかし、それから一年も経つと、ウリヤナに興味をなくしたのか、違う女性を隣に侍らせるようになる。
 その様子をみていたウリヤナが『婚約を解消しましょう』と提案したが、クロヴィスは頑なに首を縦には振らなかった。クロヴィスは聖女であるウリヤナを手元に置いておきたかったようだ。そこにたとえ気持ちがなかったとしても。
 それを知ったのは、その二年後――つまり今。
「だが、君は聖なる力を失ったのではないのか?」
 ウリヤナは表情を変えることなく、ただ奥歯を噛みしめた。彼の言ったことは事実である。今のウリヤナには聖なる力がない。事実であるため、反論はできない。まして言い訳などもってのほか。
 聖なる力を失った。それの原因はわからないが、心当たりはある。
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