あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それからしばらくして、クロヴィスの婚約の相手として、ウリヤナの名があがるようになる。
 二人の婚約が決まったのは、ウリヤナが聖女となってから一年後のことだった。
 初々しい二人を見るのは、どこか心がくすぐったい感じがした。
 聖女であるウリヤナは、神殿で生活を送っている。そのため、クロヴィスに会うときだけ王城へと足を運んだ。ウリヤナは意外と健気な女性だったらしい。
 だからウリヤナと会えた日のクロヴィスの機嫌はよかった。
 彼女が帰ったあと、アルフィーにどれだけウリヤナが素敵だったのかと、惚気話をするのだ。
『クロヴィス殿下も変わられましたね。ウリヤナ様のおかげですね』
 本当に欲しいものが手に入ったからだろうか。婚約が決まってからというもの、アルフィーのものを欲しがるようなことはなくなった。
 それでも幸せが長く続かないのはなぜなのか。
 クロヴィスがぽつりとこぼす。
 ――ウリヤナは、私よりも家族が大事なようだ
 ――ウリヤナは、私よりも民が大事なようだ
 ――ウリヤナは、私よりもこの国が大事なようだ
 ウリヤナは聖女である。聖女である彼女が何を守るのか。それはいずれこの国を背負うクロヴィスだってわかっていることだろう。
 それなのにクロヴィスは、ウリヤナから一番の愛情を向けられていないことに苛立っているように見えた。
『ウリヤナは、本当に私のことが好きなのだろうか……』
 そう言ってクロヴィスは悩んでいた。
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