あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 驚くことに、ウリヤナがそう切り出した。
 イーモンはウリヤナよりも二つ年下の弟であり、次期カール子爵として期待している息子でもある。
 十歳から通う王都の学院に通っているが、最近、付き合っている友達がよくないようだと、ウリヤナが言っていた。
『だが、イーモンはまだ十三歳だ。勝手に金庫の金を使おうとまで考えるのか?』
 彼は学院に通い始めて三年が経ったころ。中だるみという言葉もあるように、学院の生活にも慣れ、程よい緊張感から解き放たれた頃だろう。だからって、家の金に手をつけるような子だとは思えない。
『そうですね。お父様のおっしゃる通りではありますが……』
 ウリヤナは何か考えた様子ではあったが、彼女もまだはっきりとしない何かがあったのだろう。
 特に何かを明言したわけではないが、しばらくはイーモンの様子を見守るということで、その場は終わった。
 しかし、カール子爵もウリヤナもはっきりと目にしてしまった。彼は勝手に金庫を開けて、金を持ち出していた。
 それは、しばらく続く。
 やめさせようと声をかけたこともあったが、その金を倍に増やすからと彼は言うのだ。これは何かがおかしい。
 ウリヤナと相談し、その儲け話を詳しく聞くことにした。
『お父様も、イーモンの投資話に興味がある振りをするのです。資金を出してもいいと』
 そうやってイーモンを信じ込ませ、なんとか彼の言う投資話を耳にすることができた。
 だが、イーモンの言っていることが的を射ていない。まるで、金だけを奪われるようなそんな話なのだ。
 それでもイーモンは、相手を信じ、自分を信じ、お金が増えると思っている。
 これは何かおかしい。そう思いつつも、何もできない。
 イーモンがこれ以上金庫から金をとらないようにと、その対策をするしかできなかった。
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