あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
『ウリヤナ……すまない。私が不甲斐ないばかりに……。君に新しいドレスを仕立てるだけのお金がないんだ』
 ウリヤナはデビュタントを迎えようとしていた。だが、別邸で管理していた資金の多くを失ったために、それにかけるお金がない。
 情けないことをした。
『お父様。イーモンのことは私も気づいていたのです。それを見て見ぬふりをした私にも責任があります。まずは、領民のことを第一に考えましょう。お金はないよりもあったほうがよいですが、それは命があってのことですよ』
 ウリヤナは年頃の娘であるのに、誘われた茶会などは欠席するようになった。それは、カール子爵夫人も同様に。
 そしてあまった時間で、二人でウリヤナのデビュタントのドレスを仕立てていた。その二人の間に、悲観した様子など微塵も感じられなかった。
『私、お母様のドレスを着たいわ』
 それがウリヤナなりの優しさの一つだとはわかりつつも、どうしても資金の捻出ができないカール子爵は、その言葉をありがたく受け取った。
 母娘ふたりでドレスを仕上げるのは楽しいようで、貧しい食事が並ぶようになっても、屋敷の中だけは明るさが漂う。時折漏れ出る笑い声が、室内を照らすようにも感じられた。
 そうやって、質素な生活が続く中、王族から資金援助の話が飛び込んできた。
 願ってもない話ではあるが、その条件がウリヤナを王太子クロヴィスの婚約者とすることだった。
 普通なら喜ぶべき話である。しかし、カール子爵は警戒した。
 なによりもイーモンが騙された儲け話の先に、クロヴィスの側近であるアルフィーの名があったからだ。
 それにこの状況で、ウリヤナが王太子の婚約者として相応しいとも思えない。
< 86 / 177 >

この作品をシェア

pagetop