あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 一か月ほど前に、彼と身体を重ねて熱を分け合った。
 婚約しているのだからと、彼に強引に迫られたところもあるが、それを許したのはウリヤナ自身。身体を捧げれば彼の心をつなぎ留められるかもしれないと思ったのも認める。
 その結果、逆に彼の心を失い、力も失った。
「そのようですね……」
「だからだよ。聖なる力を失った君とは結婚できない。だから、婚約をなかったものとしたいんだ」
 微かな笑みを浮かべているクロヴィスを一発ぶん殴りたい気分である。
 いや、殴りたいのはあの時の感情に任せて、身を捧げてしまったウリヤナ自身だ。
 そこまでして彼の心が欲しいと望んだ自分が、情けない。
「承知しました……。ですが一つだけ約束していただきたいことがあります」
 こうなってしまっては、ウリヤナの気持ち一つで解決するような問題ではない。
 婚約を続けた先に結婚があったとしても、彼の離れた心を手に入れるのは難しいだろう。結婚のその先にあるのが不幸であるのは目に見えている。
 だから一つだけ、交換条件を出した。それはカール子爵家を守るためでもある。
「……そのくらい、大した内容ではない。必ず守ると約束しよう……。では、これにサインを」
 婚約を解消するために必要な書類はクロヴィスの前に並べられていた。それに一筆、今の約束事を彼がさらりと付け足した。
 イングラム国の王太子と聖女の婚約は、国中から注目を集めた祝い事でもあった。いつ結婚するのだと、国民も気を揉んでいたところもある。
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