あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 聖女でなくなったのであれば、ここに戻ってくればよいものの、彼女は修道院へ身を寄せようと考えたようだ。そういった結論にいきつくのも、ウリヤナらしい。
 彼女がソクーレの修道院へ向かったという話も聞いていた。さらに、中継点のテルキの街で行方不明になってしまった、とも。
 それを教えてくれたのは、アルフィーである。今ではクロヴィスの側近として名を知られている彼だが、そっと教えてくれたのだ。
 それはカール子爵たちが、王都を発つほんの数日前のこと。
 だが、テルキで消息を絶った彼女が、今までどこにいたのかさっぱりわからなかった。
 心配しなかったと言えば嘘になる。だけど、騒ぎ立てるのは彼女の意思に反するだろう。
 必ずどこかにいると信じて、ウリヤナの幸せだけを願っていた。
「ウリヤナは、この国にいないほうが幸せになれるのかもしれないなぁ……」
 じりじりと食料不足が広がっている。植物が育たないのだから仕方ない。
 早々に王都の別邸を売り払って領地に引っ込んではきたものの、ここだって余裕のある生活が送れるわけでもない。
 ただ、数年前から質素な生活を続けていたせいか、食べ物を無駄にしない方法は取得していた。それを今、領民へと教え、限りあるものを有効に使っている。
 それだって、この状況が長く続けば、いつかは食べるものがなくなってしまうだろう。他のところほどではないが、ここだって、食物の育ちは悪くなっている。
 だからこそ、この地にウリヤナがいなくてよかったのだ。
 そうやって、遠い地に嫁いだ娘に想を馳せていると、乱暴に扉が開かれた。
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