あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
奥にある金庫から金を手にして執務室を出た時に、ばったりとウリヤナに出くわしたこともある。彼女は何か言いたそうであったが、何も言わず、何も見なかったとでもいうかのようにその場を去った。
あのとき、ウリヤナが止めてくれれば、このような結果にならなかったのに――。
何度もそう思った。
イーモンの失態を父親は咎めなかった。ただ自分が不甲斐ないと嘆いていた。
それをきっかけとして、父親も真面目に帳簿と睨み合うようになった。
だから今、有り余る資金をイーモンが自由に使うのは難しい。
「イーモン様、手紙が届いております」
ウリヤナが聖女の資格を失い、王太子との婚約が解消されてから、カール子爵は王都の別邸を売り払って、こちらの子爵領へと戻ってきた。
別邸を売り払ったのは、次第に陰っていく国の状況をいち早く察したからだろう。売れるうちに売れるものを売り、少しでも金を手元においておきたかったにちがいない。
イーモンは家令より手紙を受け取った。領地に戻ってくる際に、幾人か残っていた使用人は辞めてもらった。この家令は、昔からカール子爵家に仕えていたため、一緒にこちらへとやってきたのだ。
たとえ慎ましい生活になっても、給金が目減りしても、この家令は命尽きるまでカール子爵家に仕えるつもりらしい。どのような理由があって、彼がここまでこの家に仕えるのかはわからないが、今はこのような雑務を一手に引き受けている。
使用人と呼べるような者も、彼の他にあと数人しかいないのだから仕方あるまい。
その彼が、不審がることなく手紙を渡してきたところから、手紙の差出人は信頼のおける相手だろう。
あのとき、ウリヤナが止めてくれれば、このような結果にならなかったのに――。
何度もそう思った。
イーモンの失態を父親は咎めなかった。ただ自分が不甲斐ないと嘆いていた。
それをきっかけとして、父親も真面目に帳簿と睨み合うようになった。
だから今、有り余る資金をイーモンが自由に使うのは難しい。
「イーモン様、手紙が届いております」
ウリヤナが聖女の資格を失い、王太子との婚約が解消されてから、カール子爵は王都の別邸を売り払って、こちらの子爵領へと戻ってきた。
別邸を売り払ったのは、次第に陰っていく国の状況をいち早く察したからだろう。売れるうちに売れるものを売り、少しでも金を手元においておきたかったにちがいない。
イーモンは家令より手紙を受け取った。領地に戻ってくる際に、幾人か残っていた使用人は辞めてもらった。この家令は、昔からカール子爵家に仕えていたため、一緒にこちらへとやってきたのだ。
たとえ慎ましい生活になっても、給金が目減りしても、この家令は命尽きるまでカール子爵家に仕えるつもりらしい。どのような理由があって、彼がここまでこの家に仕えるのかはわからないが、今はこのような雑務を一手に引き受けている。
使用人と呼べるような者も、彼の他にあと数人しかいないのだから仕方あるまい。
その彼が、不審がることなく手紙を渡してきたところから、手紙の差出人は信頼のおける相手だろう。