溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
唐突にそんなお願いをされても困る。


だって、誰に呼び出されているのかすら教えてもらえないなんて。


晶ちゃんと顔を見合わせると彼女は小さく首を横に振る。


行かない方がいいって言ってるんだ。


「ちょっと、いきなりなんなの?若葉に用があるなら執事の紫音さんを通しなさいよ。今はいないから出直してきて」


晶ちゃんがピシャリと断るとその執事の彼はビクッと肩を震わせる。


「も、申し訳ありません。ですが、なにとぞお願いします」


頭を下げながら弱々しく懇願されたからちょっと気の毒な気がした。


どうして主人の名前が言えないんだろう。


なにか特別な理由があるのかもしれない。


彼だってこれが仕事なんだし、私を呼んでこれないと困るんだろうな。


一瞬そんな同情をしてしまった。


「あ、じゃあ少しでよければ……」
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