溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
なんであれ、私の所有していたものが無くなることが耐えられないって。


同情よりもっと深い気持ちで、私のことを想ってくれている。


私のせいで、もう彼に切ない思いをさせたくなかったからバイトのこともしぶしぶ了承したんだけど。


やっぱり罪悪感が湧いてきちゃうよ。


「若葉お嬢様ー」


「……」


「お嬢様っ」


「……」


ぼんやり下を向いて歩いていた私をハッとさせるような声。


廊下の向こうから紫音がこっちに向かって走ってきた。


わっ、廊下をそんなに早く走ったら先生に叱られちゃうよ。


「お嬢様、どうかされましたか?」


「え、どうして?」


「下を向いて歩いていたから、何か辛いことでもあったのかと」


噂話を聞いてしまって、いい気はしなかったけど辛いというほどでもない。


いちいち愚痴って彼に心配をかけたくなかったから笑顔で、なんでもないよって返事をした。

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