溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
「それ、言ったのは紫音だから」


「……子供の頃の話ですね」


苦虫を噛み潰したような顔の彼がおかしくて小さく笑った。


「ふふっ」


紫音が私の隣に腰掛けると、そのまますがるように抱きついてしまった。


「……っ」


恥ずかしかったけど、どうしてもそうしたくて。


彼は驚いたようにビクッと身体を震わせる。


「お嬢様?それはちょっとまずいのでは……」


「紫音、逃げないで」


紫音はどこにもいかないって言ってくれたけど、まだ少し不安。


このまま離したくない。


「しょうがないですね、いつまでも子供みたいに」


呆れたようにフッと笑われた。


「今日だけですよ」


「うん」


遠慮がちに添えられた大きな手を背中に感じた。


胸の奥のつかえがとれたみたいに安心して身を委ねる。


さっきまで冷えていたのが嘘のように私の体中ポカポカ熱くなってきたみたい。
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