溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
現実に引き戻したのは、彼の強い力。


グイッと両肩を押されて引き離された。


そのまま目線を微妙に合わせず半身を起こしながら口を開く彼。


「お嬢様、お怪我はありませんか?」


「……」


「どこも痛いところはありませんか?」


「うん」


「良かった」


ホッとしたように眉を下げる。


こんな時でも私のことを1番に気遣ってくれる。


「ごめん」


私は無意識に唇に手で触れながら謝っていた。


「大丈夫です。俺も怪我はしてません」


「あ、そうじゃなくて……」


「大丈夫ですから」


どうして紫音はさっきのキスに関しては何も言わないんだろう。


このまま何事もなかったように、やり過ごすつもりなのかな。


「いま、私達」


彼の上に覆い被さる時にキスをしてしまった。


確かに、あれはキスだった。



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